産業財産権著作権その他の知的財産権知的財産権の取得方法
TOP >> 著作権 >> 著作隣接権
prologue

著作権は、著作物を創作した著作者に与えられる知的財産権です。しかし、著作物の中には著作者だけでは人々に伝達できない性質を持ったものも存在しています。そういった性質の著作物を広める役割を果たす人たちは、何の権利も無くただ淡々と著作物の伝達を行うだけなのでしょうか? そういった人たちを守るためにあるのが著作隣接権なのです。

著作隣接権とは?

著作隣接権は、著作物の伝達に努める立場にある人たちの権利を保護する為の知的財産権です。著作隣接権は限定的にではありますが著作者に与えられる著作権とほぼ同じ、「著作物を伝達する上で必要になる権利」を伝達する立場の人に与えています。著作権法では、著作隣接権は第八十九条以降に明記されています。

著作隣接権の歴史

著作隣接権の歴史

日本で著作隣接権が意識されるようになったのは、大正時代にまで遡るといわれています。当時、浪曲で人気を博し後に「演歌の父」と呼ばれた桃中軒雲右衛門(とうちゅうけん・くもえもん)という歌手が居たのですが、雲右衛門の歌う浪曲のレコードの海賊版が出回ったのです。雲右衛門と契約していたレコード会社が海賊版の製造・販売差し止めを求めて訴えを起こしたのですが、大審院(当時の最高裁)でレコード会社の逆転敗訴が確定してしまいました。大審院は「雲右衛門の浪曲は歌うたびに旋律が変わるので、旋律に従って歌っているとはいえない。その為、雲右衛門の浪曲は『瞬間創作』で著作物とはいえない。従って海賊版レコードは著作権侵害ではない」という判決を示したのです。

必要は著作隣接権の母

この論理で言えば、当時芸能の主流となっていた浪曲のレコードは幾らでも海賊版が作れてしまうことになります。その為、レコード会社が共同で著作権法改正の要望書を提出するなどして、海賊版レコードを違法とする法改正を実現しました。これと共に、「著作物の実演者にも著作権に相当する権利を与えるべき」と言うことになり、1970年の現行著作権法の制定の際に著作隣接権が生み出されたのです。

著作隣接権が与えられる人

著作隣接権が与えられる仕事の人は主に四つに分けられます。

実演家

実演家

実演家とされるのは、音楽や演劇などの公衆の前でパフォーマンスすることを前提とした著作物を実演する人です。例を挙げれば俳優・声優・歌手・ストリートパフォーマー・指揮者・演出家・芸人・舞踏家・手品師などがあります。実演家は著作物の良さを引き出すのも仕事の内に入るので、著作者に比肩する名誉を保証する著作隣接権が与えられています。これを「実演家人格権」といいます。

レコード製作者

レコード製作者

レコード製作者とされるのは「音をレコードに最初に固定した者」と規定されています。大抵の場合、レコード製作者となるのはミュージシャンと専属契約を交わした、事業体としてのレコード制作会社です。著作権法では商業活動としてのレコード製作を円滑に行う為の著作隣接権が設定されています。

放送事業者・有線放送事業者

放送事業者・有線放送事業者

放送事業者はテレビやラジオなどの「放送を業として行う者」を指します。有線放送事業者は主にケーブルテレビなどの「専用線を介して放送を業として行う者」を指しています。放送事業では、既に放送した番組が反響を呼んだり「もう一度見たい」という声が高まったりすることが多い為、著作隣接権が設定されているのです。

著作隣接権の性質
著作隣接権の性質

著作物を伝達する役割に付く人たちにはプライドがあります。それは「著作物の良さを知ってもらう」と言うことです。実演家は自分の全身全霊を尽くして演じ、歌うことで著作物の良さを全て引き出してお客様の前に並べます。レコード製作者は最高の音を仕損じること無く記録して商品として流通させます。放送事業者は、番組に関わるスタッフの熱意を出来るだけ放送時間内に収めるように編集し、全国に放送します。このように、伝達者のプライドを懸けた仕事に対する敬意が、著作隣接権の本質なのです。

それぞれに与えられる著作隣接権

では、著作物の伝達者に与えられる著作隣接権はどのようなものなのでしょうか?

実演家の場合

実演家の場合は実演家人格権と、著作財産権に相当する著作隣接権が与えられています。まず、実演家の名前の表示を決める為の「氏名表示権」があります。実演家の場合、芸名という概念があるので必要不可欠な権利と言えます。また、「同一性保持権」も与えられています。この場合の同一性保持権は、実演家の名声を傷付ける改変を禁じる性質を持っています。
著作財産権に相当する権利としては、「録音権・録画権」「放送権・有線放送権」があります。自分の実演を記録し放送するための権利です。他にも「商業用レコードの字に使用料を受ける権利」と言うものがあります。歌手は印税のほかにもレコードに収録した楽曲がテレビなどで使用された場合、使用料を受け取ることが出来るのです。他にも自分の実演を記録した媒体を譲渡することで公衆に広めるための「譲渡権」や、レコードをレンタルする為の「貸与権」があります。貸与権が一年を越えたレコードに対してはレンタルレコード業者には使用料を払う義務が生じます。また、実演者には「送信可能化権」が発生し、インターネット上で実演を公表することができます。

レコード製作者の場合
レコード製作者の場合

レコード製作者の場合、基本的に会社という形態を取っているのがほとんどです。レコード製作者に与えられている著作隣接権は、レコードの製作と販売を行うためには欠かせない内容となっています。まず、最も重要なのが「複製権」です。レコード製作者の条件となる「最初に音を記録したレコード」を複製して商業用にするのに欠かせない権利です。また、レコード製作者にも実演者と同じく「商業用レコードの二次使用料を受ける権利」が与えられています。レコード製作者に与えられている「譲渡権」は、「商業用に複製したレコードを公衆に提供する権利」です。他には実演家と同じ「貸与権」と「送信可能化権」が与えられています。

放送事業者・有線放送事業者の場合

放送事業者・有線放送事業者は、放送事業を行う同種業者なのでまったく同じ著作隣接権が与えられています。
まず、実演家・レコード製作者と同じ「送信可能化権」が与えられています。また、「複製権」も与えられていますが、レコード製造者のものとは違い、「放送したものを録画・録音したり写真に撮って複製したりする権利」となっています。放送用に用意されたマスターテープとは別に、「番組として放送したもの」を複製する権利なのです。
他に用意されている著作隣接権には「再放送権・有線放送権」「テレビジョン放送の伝達権」があります。有線放送権は、有線放送事業者に向けられた著作隣接権で、電波に乗せて放送された番組をケーブルテレビなどで放送する権利となっています。再放送権は、視聴者の要望などに合わせて、一度放送された番組を再放送するための権利となっています。テレビ番組やラジオ番組は、権利関係が煩雑になる傾向にあるため、これらの著作隣接権を設定することで放送をしやすくしているのです。「テレビジョン放送の伝達権」というのは、街角で見かける大型スクリーンを使用して、多数の人にテレビ放送を見てもらう為の権利です。