産業財産権著作権その他の知的財産権知的財産権の取得方法
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商業において、重要視される要素は幾つかあります。適正な価格設定、生産元のブランドや企業といった信用、そして消費者が好む外見を表現したデザインです。知的財産権においてデザインを保護する意匠権は、ヒット商品を生み出す大事な要素として認識されています。

意匠権の基礎知識

意匠権とは、意匠法で保護されるデザインに対して与えられる産業財産権の一つです。人の嗜好に強く訴えかける外観の基礎となるデザインは、商標に並ぶ「商品の顔」として認識されています。

意匠権が保護するデザインとは?

「意匠権はデザインを保護する権利」であると認識している人は多いのではないかと思われますが、意匠権が保護するデザインはある条件を満たしていなければなりません。それは「工業的に大量生産できること」です。このように、工業的な大量生産を前提としたデザインを工業デザイン(インダストリアル・デザイン)と言います。

工業デザインと一般的なデザインの違いは?

よく勘違いされるのは「美術品なども意匠権で保護される」ということです。しかし、意匠権で保護されるのは工業デザインだけです。工業デザインと美術品などの一般的なデザインの違いとはどこにあるのでしょうか?

工業デザインと美術品の違い

美術品におけるデザインは、基本的に量産が効かないものです。一流の彫刻家は「目の前の素材が何者になりたがっているか」を見極めて彫るといいます。すなわち、人と素材の一期一会によって美術品が生み出されるものであり、大量生産とは対極に位置するものといわれています。一方、工業デザインは大量生産を前提としている為美術品に見られるような奇抜さはさほど高くはありません。工業という枠組みの中で、製品独自の個性を発揮するデザインを追及していくものなのです。

意匠権の保護対象となるデザイン

意匠権で保護されるデザインで代表的なものは、自動車や衣服のデザインがあります。自動車も衣服も大量生産を前提としながら、デザイナーの個性やメーカーの持つ信念が現れている独自のデザインが売りとなっています。他にも指輪やネックレスなどのジュエリーデザインや電化製品、一定パターンの模様を利用したデザインなどがあります。

意匠権の力

では、意匠権は法律でどのような権利を認められた知的財産権なのでしょうか?

意匠の独占権

意匠権を設定登録されたデザインは、意匠権者によって独占的に生産する権利が与えられます。意匠権の最大の特徴は、「意匠登録されたデザインに類似したデザインを、意匠侵害として排除する権利が認められる」ということです。外見的な特徴と言うものは、よく注意して見ないと気付かないもので「意匠登録されているデザイン」と「類似したデザイン」の区別を付けることは意外と難しいことなのです。そういった錯誤を抑止するのも、産業財産権の意義と言えます。

新しい意匠権の制度

意匠権を保護する意匠法は、1998年に法改正され新しい意匠権が制度化されています。この法改正は度々起こる意匠侵害を意匠法ではなく、正規品よりも価格が安くできる模倣品を取り締まる為の不正競争防止法で排除する形になっていたことが最大の理由です。

組物の意匠制度

組物の意匠とは、ソファーセットやシステムキッチンのように複数の品物が組み合わさって、一セットになる物品のデザインを指します。法改正前は登録できる組物の意匠は13種類に限定とされてきましたが、法改正後は56種類に増加しゴルフクラブセットなどにも組物の意匠が認められるようになりました。

部分意匠制度

部分意匠は、全体意匠の中に埋没してしまいがちであるけれど独創的なデザインを持っている部分に対して発生する意匠権です。法改正以前は「デザイン全体を模倣するのはアウトだけど、一部ならばセーフ」という考え方で部分模倣が横行していた経緯があり、法改正により「部分模倣もまた模倣である」と明示されるようになりました。

関連意匠制度

工業デザインというものは、集中して書き上げた一枚のデザイン画が一発採用されるというような性質を持っているものではありません。デザイナーは複数の準備デザイン画を用意し、その中から適切なデザインを選び出す形をとっています。関連意匠制度は、そういった準備段階で作成されたデザインを正式デザインと関連するものとして意匠登録できる制度なのです。法改正以前の類似意匠制度では、類似意匠には同時に登録された正式なデザインのような権利が存在しなかった為模倣デザインに対する拘束力が発生しなかったという経緯があったのです。

いまだに意匠権の対象になっていないものとは?

字というものには書いた人の心のありようが映し出されるといいます。パソコンなどで字を表示するためには「フォント」と呼ばれる字のデータが使用されています。このフォントを「タイプフェース」と呼ぶのですが、意匠権法を含む知的財産権関連の法律ではタイプフェースを知的財産権として保護するに至っていません。また、松下・一太郎裁判で焦点となったパソコンの画面上のアイコンも意匠権に含まれていません。

意匠権の関わった事例

意匠権は産業財産権の中でもマイナーな部類に入る権利ですが、現実には幾度となく意匠権侵害を争ったケースが起こっています。

iMac対e-one

1999年に起こったこの事例では「独特のデザインを模倣すること」について争われました。アップル社が開発したスタイリッシュなデザインで人気を博していた一体型パソコン「iMac」のデザインに酷似した一体型パソコン「e-one」をSOTEC社が発表したことに端を発します。iMacの特徴は当時人気が高まっていた「スケルトン」を採用した半透明ボディと流線型のデザインで、「インテリアにも最適」と話題になりました。iMacの人気に便乗した、半透明ボディの一体型パソコンは数社から発表されたのですがその内の一つが「e-one」だったのです。この事例では、アップル社による提訴が全面的に認められ各社から出ていたiMac模倣の一体型パソコンは全て販売差し止めとなっています。

コピー商品を巡る水際の攻防

アジア方面は日本に比べて人件費が安いことから、日本の企業でも生産工場をアジア方面に移すケースが多く見られます。しかし、アジア方面は知的財産権の概念が薄い為かコピー商品の温床ともなっている一面があります。90年代半ばに起きたナイキのエアマックスブームでは、アジア方面の工場から横流しされたパーツで偽エアマックスが生産されていたことが知られています。こういったコピー商品を流入させない為の努力が日夜行われているのです。