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一昔前は、「写真を撮る」と言えば大きな一眼レフカメラを首から下げて持ち歩いたものでした。それが使い捨てカメラの発売、APSカメラ、デジタルカメラ、カメラ付き携帯電話の登場とダウンサイジングが進み、気の向いたときに写真を撮ることが出来るようになりました。しかし、写真・ビデオ撮影が簡単になったことで新しい問題が浮上してくるようになったのです。

肖像権の基礎知識

テレビ番組などで、芸能人が街角を歩いていると携帯電話で芸能人の姿を撮影する光景が放送されることがあります。もしも、彼ら彼女らがこの時撮影した写真を自分のブログなどに掲載したとします。それを知った芸能人サイドが削除の申し立てなどを要求してきた場合、それは「芸能人ゆえの傲慢」なのでしょうか。いいえ、これはれっきとした権利行使なのです。

肖像権を知る

肖像権は、日本国憲法第十三条で保護される「幸福追求権」の下に保護された権利です。肖像権を規定した法律は未だ存在していませんが、判例などで保証された知的財産権として扱われています。肖像権は、写真やビデオなどの映像媒体に肖像を記録する際に発生し、肖像の持ち主である個人は肖像が記録された映像の公開を禁じることが出来るのです。

二つの顔を持つ肖像権

肖像権には、二つの側面があります。一つは「人格権に基づいた肖像権」、もう一つは「財産権に基づいた肖像権」です。

人格権に基づいた肖像権

著作権

人格権は、「個人の人格的利益を保護する権利」とされています。人格的利益とされるのは信用や名声などです。人格的利益の侵害行為がプライバシーの侵害と考えることが出来るように、「人格権に基づいた肖像権」は写真などの肖像を公開されることでプライバシーが侵害される恐れがある場合に行使されるのです。

財産権に基づいた肖像権

著作権

タレントやアイドル、スポーツ選手はその存在感だけでお金を稼ぐことが出来ます。それは容姿の美醜と言うことではなく、名前と共に外見が知られている個人は自身の肖像を広告に組み合わせることで、広告の持つ顧客求心力を高めることが出来ることを知っているからなのです。このように、芸能人などが持つ顧客求心力の価値を保護するのが「財産権に基づいた肖像権」、正式には「パブリシティ権」と呼びます。

肖像権で守られる人・守られない人

肖像権は、基本的にプライバシーに基づいた知的財産権という事が出来ます。パブリシティ権にしても、プライバシーを侵害する写真を公開されてしまったら「商品としての価値」が低下してしまうからです。そして、プライバシーという概念が適用される人とされない人が居るのです。それは政治家です。政治家は、国民投票によって選ばれる立場にあるため、一挙手一投足までが監視される事になります。その為、政治家にはプライバシーが存在しないのです。一方、芸能人やスポーツ選手は別に国民投票で選ばれているわけではないので、「公人としての時間」と一般人と同じ状態の「私人としての時間」を持っています。この私人としての時間での無断撮影は、肖像権の侵害になると考えられます。

肖像権を侵害しない為には?

前述のように、現代は手軽に写真やビデオを撮影できて公表することが出来る時代であり、インターネットを使えば誰でも使いたい写真素材を見つけられて、自分が発進する情報に添えることが出来る時代です。それは、全ての人が肖像権を侵害することが出来る立場に居るということでもあるのです。では、肖像権を侵害しないようにするにはどうしたら良いのでしょうか?

写真撮影の際は断ってから

携帯電話で写真が撮れるようになったことで、気軽に写真撮影する一般人が増えたことを嫌う芸能人が居ます。なぜなら、彼ら彼女らは声をかけるわけでもなく携帯電話を向けて「パシャッ」と撮っていくだけだからです。「頑張ってください」と言った声援をかけるわけでなく、「当然の権利でしょ!」と言わんばかりの態度で写真を撮るだけ……。これはいけません。相手が芸能人で公人としての時間を過ごしていたとしても、写真を撮る時は「よろしいですか」と声をかけるのがマナーと言うものです。相手が掛けられない状況にあったときに撮影したのであれば、「先ほど写真を撮ったのですがよろしかったでしょうか?」と聞いたほうが良いでしょう。

風景写真に写りこんだ一般人は?

「この前行った旅行の写真をブログに載せたい!」と言う人も多いでしょう。しかし、肖像権は芸能人だけでなく一般人にも発生しています。かといって写真のフレームに写りこんだ全ての人に許可を取るなんて事は現実的ではありません。このような場合、写りこんでいる人の顔をフォトレタッチソフトで加工して、個人を特定できないようにするのが無難です。個人の特定が出来ないように写真を加工するのは、肖像権侵害ではなく相手の肖像権を守るためなのです。

芸能人の写真を使うのは駄目

例えば、あなたがある芸能人を応援するサイトを作ったとします。出来たばかりなので、文章ばかりで寂しい感じだとあなたは思いました。「そうだ、芸能人の写真を使おう!」……さて、これは許されるのでしょうか? 答えは「許されない」です。前述の通り、芸能人にはパブリシティ権が存在します。つまり、このケースの場合では「芸能人の写真」を応援サイトの客引きに利用したと見ることが出来ます。それに、サイトの構成によっては「芸能人の名前を騙って作ったサイト」と取られる可能性が出てくるのです。芸能人の事務所によっては、肖像権の扱いを厳しくしていることがあるので使わない方が身のためといえます。

コラージュは許されるのか?

一時期、隆盛を誇ったのがアイコラです。アイコラとは「アイドル・コラージュ」の略でアイドルの顔を他の写真と合成して楽しむというネット文化の一つです。様々なアイドルを素材にしたアイコラサイトが一時期乱立していました。その内容は、笑えるものからチョメチョメなものまで様々でしたが、完全に肖像権を侵害していました。法的な解釈を言えばアイコラを作って自分一人だけで楽しむのであれば肖像権侵害は成立しません。それを誰かに見せる目的でウェブサイトにアップロードしたり、印刷したものを配布したりすれば肖像権侵害が成立するのです。ですが、一人で趣味に没頭していると仲間を探したくなったり、その成果を他人に見せたくなったりするのが人間のサガと言うものなので、出来るならやらない方がいいでしょう。